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現パロロキド

恋の涙


あいつの唇にいつか己の唇で触れてやろう。そう思ったのはどれほど前だっただろう。


(今日もユースタス屋の唇潤ってんな…誘ってるのかよ…)


出会いたての頃は友情しか持ち合わ
せていなくて、いま自分が腹の中でふつふつと煮詰まっている感情とはほど遠かったはずだ。

それがどうだろう。
四つの季節を一回りし終わった頃には、彼のことを思い自分を慰めるまでになった。

当然死ぬほど後悔したし、次の日顔を合わせづらかった。
そしてこの時自分のポーカーフェイスのスキルは高いということも知った。



それはさておき。今は当の好きな人の家にお邪魔している。名目はテスト勉強。

頭の中には、まず真面目な顔で告白をして、照れながら俺も、と言ってくるユースタス屋にキスをして、ハッピーエンド!という我ながら失敗を恐れない計画があった。


ちなみに今日は相手のご両親は旅行で不在。
計画実行には絶好のチャンス。


しかし、成功したとしても、金輪際話す事すらできなくなるかもしれないと言う恐怖も伴って、トラファルガーの心臓は激しく脈打っていた。
自慢のポーカーフェイスも崩れそうである。

「…ユースタス屋ァ…暇」

ユースタス屋、とは愛称で、変なの、と言われたが直せとは言われてないのでこのまま。

「知ってる。つか俺のベッド占領すんなクソ野郎 」
「ぐえっ…は、腹を踏むなこら、くすぐるぞ」


彼はじゃれるつもりでトラファルガーの腹を踏んでいるらしいが、明らかに容赦がない。細い体は悲鳴をあげる。

仕返しとばかりにくすぐると、彼はたまらないと隣に倒れ込んできた。


それは嬉しい誤算だった。が。

「ふは、テメェ足の裏は反則だろバーカ!」

無邪気な笑顔がすぐそばにあるではないか。

(かっ……!!ユースタス屋の顔近ェ!!)

そこでトラファルガーの理性は切れた。
自信満々に立てた計画はどこへやら。
愛する彼の顔が近くにあり、しかも可愛い笑顔がまっすぐ自分に向けられていたら、そんなもん唇奪う他にどう対応するべきなのか。

計画はどうする!と騒ぎ立てる自分への言い訳はそれで終わった。

「…ユースタス屋…」

相手の顔に手を添える。
戸惑う顔も可愛らしい。

「なんだ……っ…!?」


そっと触れるだけのキス。
いつもは頭の中でもっといやらしいキスをしてそるのに、今はれで精一杯だった。


唇が触れて顔を話した瞬間一気に血の気が引いた。
やってしまった…雰囲気とか作るつもりだったのに、とか、いやそうじゃない。


「…わりィ、……あの、」
「…?トラファルガー、お前今何言おうとしてる?」

言い訳しようとする前に、ユースタス屋の真剣な眼差しがこちらを射貫く。そのまま彼は言葉を続けた。


「お前が謝って流すつもりなら俺もそれで良いぜ。冗談だったのかって笑って済ましてやるさ。だかな、冗談だったならしてきたお前が最初に笑うはずだろ。…なんだよそのツラ。お前何泣きそうな顔してんだ。」


可笑しいな。キスし終わったら、相手が泣きそうな顔をして、優しく抱きしめるつもりだったのに。

そして彼は、俺の口付けは冗談ではないと気づいてくれたらしい。こんなに勘の良い奴だったとは。


「っ…とんだ誤算だ…。なんでお前そんなに冷静なんだ、俺が泣きそうなのは、お前に嫌われるかと思って…それでだ。ぶん殴られるかとも思ってた。でもその反応だと、良い答えは貰えそうにないか…ごめんな」


泣きそうになりながら答えた。今はキスする前とは全然違う。体の芯から冷えていた。

しかし、突然おでこに強い衝撃が走る。あまりの痛みに目にじわりと涙が染み出た。

だがそれ以上に相手の目にたくさんの涙が溜まっており、瞬く間に言葉とともにぼろぼろと溢れた。


「ッ…バカ野郎っ!!なんで俺の言葉も聞かず決めつけるんだよ!!!!こ、これじゃ、お前からキスされて喜んで、浮かれた自分がバカみてェじゃんか!!!
ンだよそれ、自分の言いたいこと言わずに謝ってなかったことにする様な奴だったのかよ…クソ、もう、好きなのにッ…こんなのってねぇよ……!!」


言い終わるが先か、トラファルガーは子供のように泣き喚くユースタスを強く抱きしめた。

「いてェ…離せよ、アホ…、ロー、ロー…お前なんか、嫌いだ…」
「嘘付け、お前もしっかり抱きついてる癖に……」


筋書き通りには行かなかったが、むしろいい方向に物語は逆走している。

まさか先に告白されるなんて。
これはもう、こちらも腹を据えて言うしかあるまい。

腕の中で泣きじゃくる彼に真剣な眼差しで、さっき言えなかったことを言おう。


「お前のことが好きだ。ユースタス屋、おれと、付き合ってください」

「言うのおせェよアホ…クソ、涙とまんねェ…」


顔を真っ赤にして、首に抱きつき、耳元で小さく俺も…と呟いた唇に、トラファルガーはさっきよりも深くキスをした。

ゆっくり顔を離すと照れくさそうにこちらを睨むユースタスと目が合う。
ふにゃりと笑うとアホヅラだなと笑われて、相手の幸せそうな笑顔に思わず泣きそうになった。


ようやく結ばれた嬉しさと幸せを、しばらくは噛み締めていこうと思う。
顔の割に泣き虫で、優しく笑う、彼の横で。







泣きじゃくりながらトラファルガーに告白するキッドくん可愛いなと思って書いたんだ…
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