お楽しみ武器を見て書きはじめたらこうなりました。
それは淡く儚くて、いつもあっという間になくなるのだ。
毎年、お祭りで見つけては親にねだって買ってもらった。
そんなのも今はもう、ずいぶん前のことだと思う。
現代ですらどんなシステムで作られていたのわからなかった、アレ。
それが遠く離れたこの時代で……
「小太郎さん!それわたあめですよね?!ねっ?!」
「…だからどうした」
「えっ?いや、そうかなぁーって…なんで持ってるのかなーって…どこで買ったのかなぁーみたいな?」
「……」
お仕事から帰ってきた彼が両手に持っていたそれはまぎれもなく冒頭で語ったわたあめで。
おまけに顔より大きなのが2本も。
久しぶりに見る現代の食べ物に知らずテンションが上がっていたらしい私はじっとそれから視線をそらせずにいた。
「……欲しいのか?」
「っ、はい!」
もしかしたらヨダレでも出ていたのかもしれない、呆れたようにたずねた彼に頷くと1本ずつ、と桃色のわたあめを渡された。
「わぁ、ありがとうございます!いただきます!」
言い終わる前にかぶりついた私の隣に小太郎さんが座り、小さくそれに口をつける。
「甘いです!美味しい!」
「……」
もふもふと口に含んでは溶けていく。
懐かしい、現代と同じ味。
お互いしばらく無言で食べていたら、ふと視線を感じた。
「?」
「……」
顔をあげれば小太郎さんが私を見ている。
そしてしばらく見つめあったかと思うと、彼の顔が近付く。
「え?」
「……」
まるで羽のように触れた唇に驚いていたら、ぺろりと唇を舐められて背筋がぞくっと震えた。
「…ええええっ?!」
「喧しい。さっさと食え」
「いや、でもさっき…!」
「甘い、味は同じか」
ぶっきらぼうに言ってまた彼は自分の青いわたあめを一口、また一口と口に含む。
何事もなかったかのように、いや、普段から小太郎さんのすることはなんでもこんな感じだけど、
「…キスするならするって言ってくれても、」
「俺にそれを求めるか」
「……、心の準備とか、あるじゃないですかぁ!」
「言えば岩のように固まる奴が何を」
ふっと鼻で笑われて、悔しさに内心地団駄を踏む。彼の言うことは確かに図星だから言い返せなくて、けど前に比べたらそういうことにも慣れたと思うし、…多分。
けどさっきみたいなのは反則!
いまだに心臓がバクバクいってるし、顔もきっと真っ赤だし……。
チチチチチ…
そしてまた無言になった私達の頭上を鳥が群れで飛んでいく。その上にはわたあめと同じふわふわの雲が流れていた。
「ね、小太郎さん。雲もこうやって棒に巻いたらわたあめみたいになるとおもいますか?」
「……」
そう話しかけると、小太郎さんも空を見上げる。
「私、小さい頃に両親から『わたあめは雲をとってきて作るんだよ』って言われて信じてたんです」
「……」
「子供だったから。けどふわふわだったり伸びたり、溶けて消えちゃうのがそっくりで、今でも雲を見たらわたあめが食べたくなります」
「自分は食い意地がはっているという話か?」
「違っ、もうっ!」
頬を膨らませる私の隣で小太郎さんが小さく笑う。その横顔が可愛くてからかいの言葉もつい許してしまう。
懐かしい食べ物に思ったのは、初めて私にわたあめをくれた両親のこと。本音を言えば二人を思い出して少しだけ寂しくなった、けれど、今は隣で笑って一緒にわたあめを食べてくれる小太郎さんがいる。
それだけで寂しさがまぎれたなんて、また甘えん坊と笑われそうだから教えないけれど。
願うなら、この日々がわたあめみたいに消えてなくならないように。
そう思いながら口に含んだわたあめは、切ないほどの甘い余韻を残して消えていった。
「ん…、」
「起きたか」
餌ならもうすぐだぞ、と机に向かいながら小太郎さんが言う。
あれ?
「わたあめは…?」
「なんのことだ」
起き上がってキョロキョロと辺りを見回してもわたあめはない。それどころか、さっきまでお昼だと思っていたのに外の様子ではまだ薄暗い朝だ。
チチチチチ…
近くで鳥の鳴き声がする。
わたあめもないし、小太郎さんもさっきまでと何か違う…と、言うことは
「ゆ、夢?」
「食物の夢か、口が動いていたぞ」
「嘘っ!やだ、見てたんですか?!」
「寝言で名前を呼ばれたのでな」
うなされているのかと思えば口が動いていたので放っておいた、と言う小太郎さんは思いだし笑いか口元を押さえて小さく肩を震わせた。
今日はほどよくいい天気だ。
きっとお菓子のわたあめはないけれど、あの夢の中で見たわたあめのような雲を探しに小太郎さんと出掛けよう。