ジュードを追って校舎の中を駆けるアルヴィン。
息を弾ませながら、周囲を見渡してジュードの姿を探す。
しかし、どんなに走っても廊下の角を曲がっても探し人の姿は見つからない。
「…ジュード!!何処だっ!!」
彼の者の名を叫んでも返事はない。
チッ、と小さく舌打ちをして立ち止まったアルヴィンは乱れた呼吸を落ち着かせようと深呼吸をする。
「…何をそんなに急いでいらっしゃるのですか?」
「……っ…!」
気配もなく背後からぽんっと肩を叩かれ、驚いたアルヴィンは勢い良く振り返った。
其処には用務員のような格好をしたこの学園の学園長――ローエンが立っていた。
「教師である貴方が廊下を走ってはいけませんよ」
「…あ…ああ…すまない…」
素直に謝罪を口にすれば、ローエンは満足そうに笑みを浮かべて頻りに頷く。
そして不意に何かを思い出したのか、アルヴィンの背後にある教室に指をさした。
「貴方が探しているジュードさんはあの教室に入っていきましたよ?」
「…っ…本当か…!?」
直ぐ様駆け出そうと身を翻したアルヴィンだが、進もうとした足を止めて肩越しにローエンを見る。
「何で、おたくがジュードのこと知ってるんだ?」
「…私がこの学園長であることをお忘れですか?生徒のことくらい知っていて当たり前ですよ」
「…………あっそう…」
何となく腑に落ちない答えだが、これ以上相手をしていたらジュードに逃げられてしまうかもしれない。
今度こそ歩みを進めて教室の扉に手を掛けた。
がらっ、と音を立てて開く扉。
教室のなかにはローエンの言う通り、ジュードともう一人、金髪の女性が立っていた。
扉の音でアルヴィンの存在に気が付いたのか、金髪の女性が顔を上げて此方を見る。
「……アルヴィンか…」
「…お前は……」
誰だ、と問う前に金髪の女性が歩み寄ってきてアルヴィンの顔を覗き込む。
まじまじと見つめられて流石のアルヴィンもたじろいだ。
「…な…何だよ…」
「……いや…何でもない気にするな」
アルヴィンから視線を外した金髪の女性が横を通り抜けて教室を出ていく。
取り残されたアルヴィンは去っていった女性を怪訝に思いながらも、教室の窓際に立っているジュードの元へと歩んだ。
「……ジュード…」
小さな肩に手を掛けようとしたその刹那、ジュードが振り返って困ったような笑みを浮かべる。
「ごめんね。いきなり逃げ出しちゃって」
「…あ…いや…」
「アルヴィンと僕が幼なじみだったこと覚えてなくて、ごめんね……アルヴィンのこと、傷つけてたよね…」
今にも泣きそうな顔をして、頭を抱えるジュード。
様子がおかしい彼に触れようとしたアルヴィンの手を擦り抜けるようにジュードの身体が崩れる。
「ジュードっ!!」
壁に寄り掛かってずるずると座り込んだジュードは自らの身体を抱いて震えている。
大きく見開かれた瞳は虚ろで、呼吸も荒い。
「…思い出したいのに…思い出したくない…やだ、やだ、やだっ…!!」
「おい、ジュード!しっかりしろっ!!」
「やだっ……恐い、恐いよ…助けてっ…!!」
光を宿していない瞳から落ちる大きな涙の雫。
正気に戻れ、とアルヴィンがジュードの身体を揺さ振るが彼は狂ったように首を左右に振る。
「やだやだやだ……!!」
半狂乱のジュードはアルヴィンを突き飛ばして駆け出していく。
「おい、待てっ…!!」
突き飛ばされた痛みを堪えながら立ち上がったアルヴィンは、教室を出ていったジュードの背を必死に追い掛ける。
ジュードに何が起きているのか全くもって分からないが、このままにはしておけない。
追い掛けて見つけた彼は一人の男に押さえ付けられていた。
男の紅い瞳がアルヴィンを睨み付ける。
「保護者なら、責任持って見張っておけ」
「…っ…ガイアス…」
ガイアスと呼ばれた男は溜息を吐いて、下で藻掻いているジュードの首元に手刀を入れる。
少しして動かなくなったジュードを解放し、ガイアスは何事も無かったかのように去っていった。
―見え始める心―