《林檎》
私が、真っ赤に熟れた食べ頃の林檎だった頃、私に群がる男は沢山いた。
でも、どいつもこいつも同じ。
三日寝なくても、たとえ両足が折れていても、踊ってくれるような男はいない。
私といれば、それくらい大丈夫なハズでしょ?
私の愛情を受け止められる男はいやしない。
「おまえのそんな所が可愛くないんだ。」
「あんたにそんなこと言われる筋合いは無いわ。」
強気な私には、そんな言葉がよく投げ掛けられる。
負けず嫌いな性格だから、私も言い返す。
結局、殆ど同じ。
「カレーが出来たわよ。」
そんな私だが、彼氏は居る。
きっと頼めば、両足が折れていても、三日三晩でも踊ってくれる。
私の事が世界中で一番好きなんだって!
でも、私もそんな彼に夢中。
蜂蜜みたいに甘い二人は、作るカレーも林檎と蜂蜜を入れた甘口が好みなの。
毎週食べても飽きが来ないわ。
「いただきます。」
二人で過ごす時間。
私が林檎なのだから、彼が蜂蜜。
カレーが辛いだなんて、まるで迷信ね。
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フラれたわ。
「我が儘な子は嫌い。」だなんてさ。
もっと早く言ってほしかったわ。
どれだけ意気がっても、わかってたのよ。
負けず嫌いな所は可愛くないし、私の愛情は、端から見ればただの自己中。
それでも、そんな素直じゃない私を愛してくれてると信じたかったのよ。
もしくは、そんな私をユラユラと転がしてほしかったの。
普段のあなたもいいけど、オレ様なあなたに抱かれてみたかった。
………もう、そんな事はどうでもいいのね。
わかってるのよ。
私の捻れきったこの性格も、解けるワケが無いのよ。
二人の関係は解けてしまったのにね。
こんな日に、なんで林檎と蜂蜜を混ぜたカレーを作っちゃったのかしら。
一人で寂しく食べるのに。
あぁ。
カレーが辛いだなんて、まるで迷信ね。
涙の味しかしないわ。
全部自業自得。
どこでバランスが崩れちゃったのかしら。
蜂蜜のあなたに、もう一度蕩けたい。
もう、叶わぬ夢かしらね。
end
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