《眼鏡》
「僕は、この眼鏡を通して世界を見ることで、僕にとって都合が良い世界に認識することが出来るんだよ。」
君はそう言う。
ならば僕にも貸してよと言うと、君は特に拒むわけでもなく、普通に渡してくれた。
かけてみると、一切なんの変化も無い。
度も入っていなかった。
「別に、何も見えないよ?」
僕は眼鏡を返した。
「当然だよ。」
君は眼鏡をかけながら言う。
「この眼鏡は、“見えなくする”眼鏡なんだよ。」
「え?でも、レンズは透明だよ?」
やれやれと溜息をつきながら、君は僕に説明をしてくれた。
「これはただのプラスチックの板だよ。でも、そうじゃないんだ。この眼鏡は、僕にとってのフィルターなんだ。」
君は、一度眼鏡を外す。
「こうやって見る世界は、そのまんま映る。良い事も、嫌な事も、なにもかも。」
そう言いながら、もう一度眼鏡をかける。
「でも、眼鏡をかければ、僕の目にはフィルターがかかる。だから僕は、見たくない物を見ないでいられるんだ。」
君の顔が、寂しそうに見えた。
「それだと、大切な事も見落としてしまいそうだね。」
だから僕は言ってしまった。
「それに、悲しい事を知らない人は人に優しくなれないよ。見たくない物を見ないんじゃなくて、ただ単に、目をそらしていたいだけだよ。」
「そ…、そんなこと…。」
ほら。君は目を背けた。
「じゃあ、こっちを見てよ。」
そんな君の顔を、無理矢理こっちに向けた。
眼鏡越しの目が、怯えていた。
「ほら。ちゃんと、僕を見てよ。直接。」
僕は君の眼鏡を外した。
「ちゃんと、現実の、本当の僕を見て。」
そう言って、僕は君にキスをした。
君は、真っ赤な顔をしている。
「ほら。ちゃんと見ないと、わからないこともあるよ。」
僕は、笑いながら言った。
end
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