福岡市の夜の観光名物、屋台の営業ルールを定めた基本条例が施行されて1日で丸1年。市は「マナーの向上に効果があった」とする一方で、124店のうち 31店は道路占用許可を受けた人とは別人が営業する条例違反の「名義貸し」だと認めている。ほかにも、営業に関わっていない「名ばかり店主」が“抜け道” を探る動きもある。屋台営業の実態を追った。

屋台が並ぶ福岡市・天神の繁華街。秋の気配を運ぶ夜風に誘われ、のれんをくぐった。初老の店主や観光客と言葉を交わし、酒を酌み交わす。名義貸しを禁じた条例について聞くと、店主は声を潜めながら、こう答えた。「大金ば出して手にした権利を、役所はただで手放せというとか」

店主はバブル期、先代から営業権を買った。「当時の相場は天神1500万、中洲なら2500万」。条例は、親族にのみ一代限りの条件で権利継承を認めている。店主は大学生の息子が店を継がなければ、知人に名義を売るつもりだったという。売買を禁じられたことに憤慨していた。

別の男性店主は、約20年前に屋台を始めた。先代が示した譲渡額1400万円を値切り、1千万円で名義を得た。その後は別人に店を任せ、家賃名目で月10万円を受け取ってきた。

条例施行後は、家賃をもらうのをやめた。市の巡回指導があるため、毎日店に顔を出す。「あくまで自分が営業している」ことを示すためだ。ただ、調理も皿洗いもしない。指導員の姿がなければ、客席で酒を飲んで時間をつぶす。いわば「名ばかり店主」だ。

なぜ、名義は高値で取引されるのか。40代の店主は「そりゃもうかるけん、みんなしよるんですよ」と答えた。九州一円の客が集まる一等地。しかも、事実上の家賃いらずだ。店主は「月の売り上げは100万円を超す」と明かした。

ただし、現状で名義貸し状態の31店は、市が「生活再建期間」と定めた2017年春までの猶予期間を過ぎると、許可を取り消される。市は将来的に営業者の公募を検討しているが、「ルール順守と適正化が先」として時期や選定方法を明らかにしていない。

「ラーメン店チェーンが手を出してくるげな」「そんなんで屋台の伝統は守れんばい」。店主たちは、公募の話で持ちきりだ。

「どうなるんやろう。市は何の説明もせんし」。20代の店主はため息をついた。許可を失えば、職のあてはない。その日に備え、カウンターに客のカンパを求める貯金箱を置いている。

◆福岡市屋台基本条例◆ 屋台の営業適正化に向けた基本理念を定めている。道路や公園の占用許可を得た店主以外が営業する「名義貸し」を禁じるほか、営業時間を午後5時〜翌午前4時と定め、屋台外に机や椅子を出しての営業も禁じている。6カ月間に2回警告を受けると占用許可は最長30日停止。さらに半年以内に警告を受けると、許可を取り消す。道路占用料は年間約8万円。
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