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比重と対価

「そんな…!?」

「嫌なら結構ですよ?

…で、どうするの…?」


―――――ーーーーーーーーーーーーーー



小気味よい紙擦れの音が灰色の空間に響く

こうした管理はしておくに越した事は無い


「今日も豪勢な荒稼ぎっぷりだねぇ〜?」


飄々とした声に一瞬音が止まる

「………」

暗色に見える赤が鋭く相手を一瞥した

ヒラヒラと胡散臭い笑顔の男に、不快感を隠す気も起こらない

「…人聞きの悪い事を言わないでくれるかい?」

紙幣の勘定をする白い手が再び動きを取り戻した

「え〜?だってパッと見ても、かなり有るじゃん」

ソレ、と手にしてる金を苦笑混じりに指差される

「こんなの、端金に過ぎないさ」

消える物だ、幾ら有っても不足は有れど足りる事は無い

サラリと青みがかる髪が顔に掛かる

鬱陶しく思いながらそれを耳に掛け、纏めた紙幣を鞄に仕舞う

「アララ…シビアなお言葉」

相変わらずだねぇ、シー君は、と不識はシークから離れた位置に有る、手近な瓦礫に腰を下ろした

「事実だろ」

にべも無く言い切る

「で、どうしたの?そのお金」

ガサガサと自分の荷を漁りながら問いが来る

イチイチ五月蝿い奴だ、どうだって良いじゃ無いか…

「治療代だよ」

ジャラジャラと硬貨の音が鳴る

中にはピースの姿まで有るではないか

コレはまた豪勢な…

「羽振りが良いんだねぇ…?」

全く、有る所には有るモノだと痛感させられる

「別に?渋々出したから、相手」

「え、深窓のご令嬢でも治したんじゃないの?」

「…君のその馬鹿過ぎる思考、何とかならないのか?

令嬢は令嬢だったけど、相手はその飼い犬だよ」

呆れ混じりの痛い視線をぶつけてやりながらも、その手は休まらず動き続けている

「シー君動物も治せるんだね〜?」

感嘆しながら褒めるが

「資格なんか無くても、知識と技術が有れば治療は出来るさ

それに、このご時世使える術は使うモノだろ?」


帰って来る言葉は自分より年下とは思えぬ程、辛辣なモノだ…

「シー君、辛口だねぇ;」

思わず苦笑が滲んでしまう

「僕は普通だと思うけど?」

見向きもせず言われると、尚更ドライな台詞に聞こえるモノだ…
「…よっぽど可愛がられてる犬だったんだ?」

心が折れる前に話題を変えた方が賢明だと長年の実績が物語る「そうだね、小綺麗な犬だったよ」

フワフワした毛並みや切り揃えられた爪等、外見は満ち足りた様子だった

「愛玩されては居たんだろうね」

「…素直に『可愛がってた』で良くない?」

「間違っては無いよ、あの犬は『愛玩』されていたから」

どうしてこうも棘の有る言い方をしたがるのか…

不識は小さく肩を落してみせる

「不思議な事じゃない、良く有る事さ」

知ってか知らずか、シークは言葉を続けた

―――――ーーーーーーーーーーーーーー

廃墟に程近いその街は、医師は居ても獣医はおらず、そちらの方が稼ぎ口になる様だった

実際、その令嬢は犬を治せると聞けば喜んで出迎えた位だったのだ

長く看護されなかったせいも有り、容態は悪く、衰弱した犬はそれでも小綺麗にはされていて美しかった

「それで…、先生、その子は…?」

「手術をして安静にすれば、治りますね」

そう答えれば令嬢は目に涙を浮かべ、良かったと犬を撫でた

「…それで、代金の方ですが…」

そんな令嬢を尻目に、シークは話を切り出す

彼にすればコレはビジネス意外の何物でも無かった

「そうですね…ざっと1000ピース分になります」

算出した金額を口にした瞬間、涙ながらに犬を撫でていた彼女の手が止まったのだ


「そんな!おかしいんじゃ無いですかっ!?」

「別におかしく有りませんよ」

シレッと言ってみせると彼女は立ち上がりシークを睨み付けた

「冗談じゃ有りませんわ!!
幾らこの街に獣医が居ないからって、貴方足元を見るにも程が有りましてよ!!」

ツカツカと詰め寄るその顔には、先程までの優しげな面影など消え失せている


またか…と思った…


「大体、その歳で本当に医者なのかしら!?
ワタクシのお金目当てに詐欺でも働こうとしてるんじゃありませんの!?」

見れば見る程お世辞にも綺麗とは言えない身なりだとは自負しているし、汚いモノを見る目にも、良い加減慣れてしまっている

動かない犬を一瞥する余裕すら、有った

確かに、ピースはCPより高額な物だ

だが、シークはコレで妥当としか思っては居ない

ギャンギャン喚く女にウンザリしてきた、金切り声は嫌いである

「…嫌なら結構ですよ?
その子は死に、貴女の傍らが少し輝きを失うだけですから…」

鞄を手に帰ろうとすれば

「お待ちなさい!!」

と叫び止められる

面倒臭くなって半眼で見返してやる

「で、どうするの…?」

ワナワナと怒りで震えた顔は偏屈なオバサンにしか見えないが、彼女は渋々金を支払い、犬は一命を取り留めたのだった…


―――――ーーーーーーーーーーーーーー


「でもさぁ、お金出してくれたんなら、ヤッパリ愛してたんだよ〜」

カラカラと笑う不識に頷く

「そうだね、愛してたんだと思うよ」

珍しく肯定すれば阿呆な顔が更に馬鹿のそれになった

…意外だと思ったのだろう…

「その犬、血統書付きの高価なのだったからね」

彼女はその犬を愛している

…自分を飾る、装飾品として…

馬鹿馬鹿しくなって、鼻で笑えば

「どうしたのさ?」

と、不識が尋ねる


「滑稽だね、と思っただけさ…」

「何が?」

「彼女が」

解らない、と苦笑する不識に、シークは言葉を繋げた

「自分が死にかけたら、ピースだろうが何だろうが惜しまない癖に、同じ動物に置いては出し渋るんだから、ね…」

命は平等で、死も平等とは良く言ったモノだ

否定はしないが、ソレはあくまで人間の価値観

猫や鳥が轢き殺されても路肩に放置する癖に、それが人なら事件だ事故だと騒ぎ立てる

勝手な都合で値を付けて売り買いし、愛玩やら食品にされても許される

「考えた事が無いのさ…もし、自分が売買されて、慰み物になり、飽きて棄てられる様を、ね?」

馬鹿馬鹿しい、或は異常

そんな考えだと口を揃える考えだ

解っている

それでも…

今日、口にした肉が人のソレで、それを喜々として喰らう人間を想像してみる

家畜舎に飼われ、屠殺され、例えば市場にでも売り出される人を

解体したり、開いて干物になってる人を


…僕は想像する…


呆気にとられている不識を他所に、通貨を仕舞い終えた体は瓦礫から軽やかに着地した

「それじゃ、僕は失礼するよ」

良い加減、君の相手も飽きたしね

ヒラリと踵を返して闇に紛れた少年に取り残された画家は、やはり苦笑を浮かべ、言いようの無い感情を白紙の上に描き始めたのだった…
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