彼が出逢った彼女は、その世界で確かに命を謳歌していた
空を、風を、光を感じながら生きて居た
あの時、歌が響かなければ…
あの時、紡がれ始めたんだ…世界の終わりが…
数百分の一の確率で目覚めたら、壊れた世界が広がっていた
鳴り止まない警報音と喧騒の中で、絶たれた肉塊を詰め込んだ機械を眺めていた
あの時、数瞬目覚めるのが遅ければ…
あの時、奇跡的に異常が正常に変わっていたら…
気付いた事と手遅れの事
まだ、あの命が生きていた事
もう、還る器が奪われた事
彼は人では無くなった
しかし、人で在る事を辞めなかった
繰り返した人生を積み重ねて、踏み台にした
何度絶命の気配に縛られても、同じ場所に立ち戻る
何十年何百年何千年…幾年月…
『今』彼は天才と呼ばれている
眩む世界の面影は、何時まで経っても色褪せ無い
世界を危機に晒しながら、世界を開く準備をする
その先にいる存在に示す為に
もう一度響かせよう
解れた世界を紡ぎ直そう
あの歌声で取り戻そう
解放しよう、約束するよ
必ず還す、と…