白に統一された無機質な空間
透明な容器から出されて響く排水の音

満たしていたエーテル溶液を吐き出し、初めての自発呼吸
酸素が肺を通して肉体へ配給される


差し伸ばされた掌と共に向けられたのは
最初の会話、初めての問い掛け


『君の名前は?』




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漠然と夢見の波紋が揺らいでいる


「………セト………」

無意識に発した振動で揺らぎは急速に収束する
意識が沈む、変わる

濡れた床を淡々と見つめて音を繋げた


「不識」


少年は抑揚も輝きも無い安定で、答えた



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言いたかった言葉が有った気がしますが、どうにも結合してはくれない様です

「ぁ、あ……ア"ァ、あ……」

何かが漏れて行く様に、焼き切れたソコから繋がらない

「あ〜……」

済みません、伝えるべき何かを導き発せられない様です


朔月の夜、星も輝かぬ闇の中
初めて貰った贈り物


「天都屋朔夜……君の名前だよ」


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無関心に、辺りを見回して
無感動に己を認識する

濡らす液体は暖かくも冷たくも無い
一つの個体数字は問うた

名前、果たして思い当たる数値は在ったか?いや、無い
必要では無い

そう数式を組み立てた時に、鴉が飛翔した
ビジョン、見た事も無い数


「君は五鴉、斎だ」


X、i、二乗の意味、未知、その片割れ

紫色の瞳の見て、微かに触れた揺らぎ
他者は僅かに瞠目した


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感情は無くても激情がはしる
自分はこの存在の為に居る、と悟る

濡れた手を畏れ多くも伸ばし、重ねた

「………………」

言葉を失う程の至福

存在は告げた

「君の名前は安曇姫菜」

頭に彷彿とした言葉を私は告げた

「……クロス……シュタイン……?」

その人は笑って、そうだね……と頷いた


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見えなくても解ってた
ずっと隣に居ることを

触れ合わなくても解ってた
それは自分自身なんだと


初めて同じ空間で、互いに目を合わせて知った
そして互いに向かい指先を示す

「水那」
「維透」

互いが互いに確定し合う

唯一違う存在は言った


「君達は鳥羽だね」

二人で一つ、そう笑った

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溶ける、混ざる
解けて繋ぐ

初めての問い
自分は何者なのか?

解らない、解らない
返す解答が見付からない

「夢鯨零示、君の名前だ」

優しく笑うその人
次に出会った個体は、一瞬僕を見て驚いた気がした

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黒い空白が有りました
何も無いモノが在りました

次第に音を、振動を流れを感じました
そして、薄暗い光を感じて薄く目を開いた世界に貴方は居ました

「おはよう」

まだ冷たく強張る手を取って、貴方は言います

「ようこそ、ワンダーランドへ」

ALLICEはアリスへ、唯一無二の姓と共に目覚めた


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