「痛みをちゃんと感じるから、生きてるって分かるんじゃないかな?」



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「痛くないの?」

「痛覚を遮断している。痛みは無いな」

「痛くないんだ……」

「あぁ」

「……」

「何だ?」

「?」

「お前の方が『痛い』みたいだが?」

「あぁ……うん。多分、痛い、かも」

「理解出来ない。何故だ?」

「んん。痛いって生きてるのに必要だと思うから」

「欲しいのか?」

「……まぁ」

「お前がマゾヒストだとは知らなかったな」

「そう言うんじゃないよ」

「で?」

「痛くないのが、痛いかな」

「やはり、理解出来ない」

「ん〜……そうかぁ」

「痛覚は生命に及ぶ危険を知る手掛かり、と?」

「それも有るね」

「他も有る様な言い方だな」

「俺だけかも知れないし」

「そうか」

「……治療終わった?」

「あぁ。動くには問題無いな」

「そっか、良かった」


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どうしてあの娘が傷付くの?
だってコレは俺の傷なのに

どうしてあの娘が苦しむの?
だってコレも俺の病なのに


どうして教えてくれないの?

痛くないと、解らないよ
君の痛みを想像すら出来ないよ


そんなの、嫌だよ



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左手首、赤い筋が滲む。

痛い、痛い。


「大丈夫、大丈夫」


取り出した包帯を巻こうとして上手くいかない。

あの娘がやってるのを見よう見まねで動かして、不恰好な止血完了。

心配性な従者も来ない廃墟の中。
ひっそりと試した躊躇い傷。

取り落とした刀を拾って仕舞う。
瓦礫に座って一息吐いた。


「……ふふっ」


ちゃんと感じる痛みに、不釣り合いな笑顔。


「大丈夫、大丈夫」


右手を添えた傷口、深くは無い。
死にたい訳じゃない、生きたいだけだ。


痛みを知らないと、生きてないのと一緒だ。

見かけた死骸に思いを馳せる。

俺は居たい、此処で生きていたい。
から、奪われない傷を知らないといけない。


ぼんやりしてきた頭。
そろそろ戻ろう。


「大丈夫……大丈夫……だいじょうぶ……」


ふらふら足取り、驚きの目。

結局この傷も奪われて、あの娘が傷付いただけになる。

傷付けた痛みや、左胸の奥の痛みは奪えない。

ねぇ、俺、生きてはいけないの?


言葉なんて吐けない。
ただ泣いて、また笑う。


大丈夫大丈夫。


ちゃんと痛いよ。
此処が、痛いよ。

自分で背負う覚悟だけが空回り。


大丈夫大丈夫。
次は奪われないように、もっとひっそり傷付いてみよう。




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「なぁ、颯刃」

「ん〜?」

「お前、そこの痣どうしたんだ?」

「あぁ〜……ぶつけた」

「えっ?腹を?」

「うん」

「痣になる勢いで?」

「うん。廃墟行った時落ちて瓦礫に当たった」

「えぇっ!?大丈夫なのか?」

「平気平気、押さないと痛くないし、小さいし」

「お前なぁ……打ち所によっては痣じゃ済まないだろ?
気を付けろよ」

「ははっ、ごめんごめん。
ちゃんと気を付けるよ」

「今度から俺も行くわ」

「えっ?」

「お前一人だと危なっかしい」

「信用無いなぁ……」

「信用っていうか、心配」

「勇音は心配性だなぁ」

「いいだろ、別に。
友達を心配したってさ」

「……ありがとう。勇音は優しいね」

「いや普通。ほら、着替えたんなら行くぞ?」

「うん。今日は何するんだっけ?」

「本当にうっかりしてるなぁ……今日は100m走だろ」

「わぁ、勇音の得意なやつ」

「颯刃も速い方だろ?」

「勇音には負ける〜」

「やる気だせよ」

「じゃあ、競争する?」

「廊下は駄目な。
昇降口から、グラウンドまでで勝負しよう」

「了解〜、頑張ろう!」


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痛がりさん、今日も傷を隠して笑ってる。

内緒の話、内緒の痛み。

これは、俺が生きている話。