ヘンリエッタは、数奇な運命を生きる女性である。
いや、ある意味彼女はもう既に死んでいる。
人間として死んだ彼女は姿を変え生き続けているが、それはやはり彼女とは言えないのか、どうか?
まぁ、そんな話は良いんだよ。
ヘンリエッタ、君は君だ。
そして今、君は俺だ。
ヘンリエッタ、もしくはヘラ。
君は幾つもの加工で人間とは言えなくなってしまった。
でも、安心して?
俺も人間とは言えないから。
不死に殖え続ける、それは今や無限に等しい空白として俺に宿る。
手術台の上、眺めた天井から降り注ぐライトの光。
麻酔の効いた左目の膜を輝くメスが裂いて、ヘンリエッタと1つになった。
君はアイ。
それは『俺(i)』
君はアイ。
それは『左目(eye)』
君はアイ。
それは『感情(love)』
HeLa、君は細胞の一つで俺の一部だ。
永久の空白に宿す、世界数値。
何時かの為に、誓いの為に。
充たす焔は蒼白く揺めき灯る。
照らすのは約束された死か、はたまた予期せぬ物語か。
此の身へ宿れ、此の身を充たせ。
あの子へ宿れ、あの子を充たせ。
ヘンリエッタ、見えるだろうか?
人間では無い身体に流れる赤い血が。
人間では無い身体を焦がすココロが。
俺には見えない。
見えないから、きっとコレは君のモノ。
左目から、零れて流れる水滴は
きっと多分、君のモノ。