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朧なるは、闇啼く禽の謡

ふわふわ、現実感が無い。

総てが靄掛かった様にハッキリしない。



白い。何処だろうか?

森?
それにしては生命の気配が無い。

街?
違う、此処には誰も居ない。


例えるなら、廃墟に近い印象だ。
自然に飲まれて世界から断絶された場所。

静か過ぎて気味が悪い。
温度も感じないが、言い知れない寒気に襲われる気がして、首布を引き上げる。


“何か”居るかも知れない。

そっと柄に指を添えた。
何時“何か”が現れても良い様に。

しかし、幾ら気配を殺して意識を研ぎ澄ませても、何も感じない。

それが無性に魂をざわめかせる。

自分の鼓動だけが嫌に耳に、頭に響く。

(このままじゃ、駄目だ)

荒ぶる精神を宥める為に、一度柄から指を離して意識して呼吸を繰り返す。

吸う、吐く、吸う、吐く…

2、3度繰り返す間も眼は開けておく必要が有る。


魔が来る時は突然だ。
眼を閉ざしてはいけない。


“魔が差した”と言うのは、この魔に入り込まれて起きる。

大抵の負の感情を引き起こす結果を齎す原因だ。

だから眼を醒まして、魔をいち早く見付けて祓わなければならない。

それが、退魔の役目の一つ。


注意深く歩を進めながら、気が付いた。

此処は現世では無い事を、恐らくは夢の中だと思う。

見馴れない様で、何処かで違和感を感じる風景。

(どうも、ハッキリしないな)

既視感。とでも言うのだろうか?

来た事が無い筈なのに、懐かしい様な、物悲しい気持ち。


白い瓦礫が散乱する、広い場所に出た。


直感が告げた。


-知っている-と…


(俺は、此処を知っている…?)


知らない、記憶に無い。


哀しい、怖い、そんな感情が掠める割に酷く落ち着いている自分が居る。


ある地点に立った時だった。


『ねぇ』


頭に声が響いた。

幼く、少し怯える様な声。

聞き覚えが有る様で、聞いた事が無い様な声だ。


『ねぇ。もう、うたわないの?』


声の主は“何か”に話し掛けている様だった。


『きれいなうた。じょうずだね』


今度は純粋な喜びと尊敬を含む言葉。


『おれは  っていうの。
あなたのなまえは?』


「…っ…?」


思わず手を添えた頭の中が、熱い。
見えないモノで掻き乱される。


『なまえがないの?それとも、ことだまをつかえない?』
無邪気な質問が、声が頭を、脳裏を焼き焦がす。


『あのね、さっきのうた…すごくじょうずだった!でもね』


「や、なん…だ…?」


怖い、恐い、こわい、コワイ

本能が、魂が怯えている。
まるで、禁忌の箱を開く様に…


『おれ、なんだかこわいよ』


泣き出しそうな声は、俺の口から零れたような錯覚がした。


歪み、更に霞み出す視界に、ぽつりと一つの陰が在った。

見ている、見られている。

敵意も悪意も殺意も感じられはしなかったが、本能的に身体と魂が硬直する。


恐怖に搦め捕られて、肺が潰れそうだった。

息の吸い方を忘れてしまった、そんな苦しさが身体を蝕んでいく。


今すぐにでも喰らい付きそうな、深淵の漆黒。

静かに、確実に俺を見ている。

指が動かない、眼を逸らせない。

じわじわと這上がる恐怖に竦んでしまう。

陰が、動いた。


ゆっくりと、迫る、虚ろ気な気配。


止めろ、近付くな!

言霊は紡げないまま乱れた呼吸となって霧散する。


目前に立つ闇は、微かに俺に囁いた。


『…ワスレロ…  …』



―――――――――――――――――――


目が覚めた。

上体を起こして伸びをする。

カーテンを開けると眩い光りが差し込み、思わず目を細めた。


「今日は天気が良いなぁ」


今日は何をしようか?
期待と希望に笑みが零れた。

手早く身支度を整えると、聞き慣れた声が耳に入る。


「ゲゲッ!!ボンクラの癖にオレ様が起こす前に起きてやがるだと!?」

「おはよう、赤兎。
今日は何だかスッキリ目が覚めたんだよね」


今日は天変地異でも起きやがるのか!?

なんて慌てている赤兎に苦笑しながら、彼の付いた端末を手にする。

幸いミッション通知は無かった、ゆっくり朝ご飯が食べられそうである。


学食にでも行こうか?
いや、購買で買って屋上や中庭で食べても良さそうだ。

勇音達も起きているだろうから、声を掛けてみよう。

清々しい気持ちで、俺は自室から廊下へと歩いて行った。
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