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箱の猫の末路

東京が解放され、ガーディアンの個体数も減少傾向になった

人々は復興への道を確かに歩み出したのである










なのに、何故だ?






今後の方針通知の為に全生徒が体育館に集められた
しかし、そこからの記憶が不自然に欠落している


今しがた目覚めた場所は数十人の生徒が鮨詰めにされた密室
壁の天井際に1台のモニターが嵌め込まれているだけだ

ざわめきと熱気が個室に溜まる中、不意にモニターが点灯した



全国報道と思わしき電波が受信されている


政府は現状を快方と見て、更なる復興措置を取る決断に至ったらしい


自分より背の高い頭で上手く画面を観きれ無いが、放送内容を鑑みるにそんな内容だった


そして、次には耳を、目を疑う報道が飛び込んだのだ


政府は国家、世界意志として、人類に危険性の有る『知覚者の処分』を決行する


意味を、掴み損ねた


世界保全機構は世界保全の為に人類より突出した才能を保有する知覚者を危険分子と判断した


俺達が危険分子?知覚者の処分?


「そんな馬鹿な」

呟きは思いとは裏腹に掠れていた


混乱が反響し、増幅される

ある者は錯乱し絶叫する
ある者は力づくで壁の破壊を試みる


しかし、それらは徒労だった


グラップラーの渾身たる一撃も傷が付かず、武器も通信手段も無い
また、魔力も安定せずスキルが封じられている感覚に陥る


呻き声が突如混乱を裂き、少し離れた位置の女生徒が床に倒れた
人混みの中彼女は何度か肉体を震わせた後、大人しくなった


尚、処分執行は本日12:00より開始され
知覚者達は直ぐに危険性を取り除かれます


そんな事務的な声に弾かれ、モニターを見れば時刻は執行予定を過ぎていた

嫌な汗が体を伝う
鼓動が高鳴り、妙な焦燥感が胸を焼く

1人また1人倒れる生徒
狂乱は加速し無我夢中で壁が叩かれる


有り得ない、有り得ない
まだ廃墟には危険が、ガーディアンが生息する筈だ

人間が同じ人間である俺達を処分など……


凝視したモニターに次に映ったのは、機構公認の『人工的』な知覚者達の姿だった

彼等が知覚者に代わる廃墟問題の処理を行う『道具』で有ると




その中の、よく知る男は、全く知らない様相で立ち並んでいた

覇気も生気も表情も感情も、下手したら言葉や個性すらも殺ぎ落とされた様な姿


「……馬鹿な」


速くなる呼吸に反して息苦しい
痛み出す頭に反して逸らせない視線

赤紫のそれは、何も語らず、微動すらしない


すとん、と足から、力が抜ける
今や立つ人影の方が僅かで、大半床に蹲ってしまった

だが、俺は蹲る体力さえ無くそのまま横に崩れた

苦しい、痛い、苦しい、辛い、どうして、何故


焦点が解けても、画面を捉えようと目を開く
思考をしようにもバラバラに破壊される横に霧散してしまう








何故、何故、こんな目に、何故、苦しい、怖い
彼奴は、どうして、怖い、嫌だ、苦しい、苦しい









怖い、苦しい、怖い、怖い、苦しい、怖い、怖い、怖い、


いや、だ

い、や……



誰か


過るのは、黒髪の鍛えられた男


誰か



赤髪の、元気な女子



誰、か


顔が思い出せない、女性


だれ、か



たす、け……



冷たく、背を向けた男性






あぁ


……あ、ぁ……







かなわない





そう何かが静かに、全てを呑み込んだ





最期に、掠めたモノは

赤銅の髪をした、眩しい……



























ビクン、細胞が震えた気がして
俺の意志は、そこで途絶えた





















鎮まり返った密室

横たわる数十人の姿





機械的に床が開かれ、1人また1人と底に墜ちる



やがて全てが墜落し、床が閉まる


ブザー音、ランプが点灯した










地獄には業火が在るらしい

容赦無く、焼く尽くす灼熱の焔は、骨すら灰に変えた




どれくらい経ったのか、ランプが消灯される



2度と開かぬ棺に詰め込まれ、2度動かぬ永劫の闇に置かれた









やがて年月を経て人間は語るのだろうか?


災厄を乗り越え、我々は遂に幸福を築いた、と

人間は支えあい、愛と慈しみを以て困難に打ち勝ったのだ、と










不思議と、感慨が無かった


滑稽だ、と嘲笑する事も
嘘偽りだ、と憤慨する事も

漠然とした今はもう、嘆く事すら叶わないだろう









これが俺が知る
『平和』の話だった……







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産まれ出る集合体の言葉



白に統一された無機質な空間
透明な容器から出されて響く排水の音

満たしていたエーテル溶液を吐き出し、初めての自発呼吸
酸素が肺を通して肉体へ配給される


差し伸ばされた掌と共に向けられたのは
最初の会話、初めての問い掛け


『君の名前は?』




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漠然と夢見の波紋が揺らいでいる


「………セト………」

無意識に発した振動で揺らぎは急速に収束する
意識が沈む、変わる

濡れた床を淡々と見つめて音を繋げた


「不識」


少年は抑揚も輝きも無い安定で、答えた



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言いたかった言葉が有った気がしますが、どうにも結合してはくれない様です

「ぁ、あ……ア"ァ、あ……」

何かが漏れて行く様に、焼き切れたソコから繋がらない

「あ〜……」

済みません、伝えるべき何かを導き発せられない様です


朔月の夜、星も輝かぬ闇の中
初めて貰った贈り物


「天都屋朔夜……君の名前だよ」


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無関心に、辺りを見回して
無感動に己を認識する

濡らす液体は暖かくも冷たくも無い
一つの個体数字は問うた

名前、果たして思い当たる数値は在ったか?いや、無い
必要では無い

そう数式を組み立てた時に、鴉が飛翔した
ビジョン、見た事も無い数


「君は五鴉、斎だ」


X、i、二乗の意味、未知、その片割れ

紫色の瞳の見て、微かに触れた揺らぎ
他者は僅かに瞠目した


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感情は無くても激情がはしる
自分はこの存在の為に居る、と悟る

濡れた手を畏れ多くも伸ばし、重ねた

「………………」

言葉を失う程の至福

存在は告げた

「君の名前は安曇姫菜」

頭に彷彿とした言葉を私は告げた

「……クロス……シュタイン……?」

その人は笑って、そうだね……と頷いた


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見えなくても解ってた
ずっと隣に居ることを

触れ合わなくても解ってた
それは自分自身なんだと


初めて同じ空間で、互いに目を合わせて知った
そして互いに向かい指先を示す

「水那」
「維透」

互いが互いに確定し合う

唯一違う存在は言った


「君達は鳥羽だね」

二人で一つ、そう笑った

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

溶ける、混ざる
解けて繋ぐ

初めての問い
自分は何者なのか?

解らない、解らない
返す解答が見付からない

「夢鯨零示、君の名前だ」

優しく笑うその人
次に出会った個体は、一瞬僕を見て驚いた気がした

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黒い空白が有りました
何も無いモノが在りました

次第に音を、振動を流れを感じました
そして、薄暗い光を感じて薄く目を開いた世界に貴方は居ました

「おはよう」

まだ冷たく強張る手を取って、貴方は言います

「ようこそ、ワンダーランドへ」

ALLICEはアリスへ、唯一無二の姓と共に目覚めた


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