「気付くと、いつも進行方向上に女がいたんだ」
錦城さんは言った。まっすぐに指を伸ばして。
別に白いワンピースだとか、髪の長いだとかいうことはない。
キャミソールにホットパンツ、軽い茶髪といった出で立ち。いつもうつむいていることだけは気になった。
「……でも、初めて見たのが12月だったからな」
女は何をするでもなく、ただ錦城さんの進行方向上に立っていて、雑踏や車が横切ると、消える。
「ふぅん」
「興味無さそうだね」
「いえ、そういうわけでもないんですけど。ただ、立ってるだけの幽霊ねー、と」
「……立ってるだけじゃないかもしれなくてさ」
近づいているのだという。
会うたび、明らかに距離が縮まっている。
例えば、交差点の向こうから、横断歩道の真ん中へ。銀行のなかから、自動ドアの外へ。
どこに現れるかはわからないが、確実に女は錦城さんに迫ってきていた。
「なるほど」
鐘子が手を打った。
「それで、次に会うときは目の前かもしれない、ってオチでしょ?」
錦城さんは苦々しい顔をした。
「もう、あったんだよ」
女は目の前に現れた。
いつものように突然、いつもと同じ出で立ちで。
いつも通り、すぐに消えた。
「……あぁ。でも、いきなりうつ向いてた顔を上げて『おまえだー!』なんて言われなくて良かったですね」
「よかったかな……? 今度はさ、」
状況が変わった。
振り向くと、女がいる。後ろ向きで立っている。
振り向くたび、女は遠ざかっていった。
「つまり、俺のことを通りすぎていったんだよな……」
錦城さんは目を伏せた。
「なんでそんなに辛そうなんです? そのまま遠くに行っちゃうんでしょ?」
「……最近、また前から来てるんだよ」
どうやら一周してきたようだ。