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スカイプ その2

 鐘子のパソコンは重い。
 クリックひとつで、砂時計が三分続くこともしばしば。


 遠方の友人とスカイプ。
 友人からかけてきたスカイプに、応答を押す。押そうとする。


 またか。


 パソコンは固まってしまって動かない。
 スカイプの着信メロディだけが延々続いている。


 鐘子は電話をかけた。スカイプを使うのは電話代をかけないためだが、こうなればやむをえない。


「また固まっちゃった。動かないから、もう切っていいよ」


 友人、詩春さんは「えっ」と言った。


「だいぶ前に切ったよ。どうせまた動かないんだろうと思って」


 着信メロディは相変わらず鳴り響いている。
 じゃあこれはなんだ?


 タイムラグ?


 そのとき、唐突に応答がクリックされた。通信画面が広がる。


「こんにちは」


 聴いたことがない声がした。

長い廊下

 矢ヶ崎さんの趣味は心霊スポット巡り。

「N区のさ、E公園って知ってる?」

 嬉しそうに尋ねる彼の顔。正直なところ、「心霊スポット」系の話は、鐘子が苦手とする類いのものだ。
 わざわざ刺激しに行く人間の気が知れない。

「知ってますよ。一部では有名らしいですね」

 一部では。鐘子はもう一度付け足した。
 テレビなどで取り上げられるほどでもないが、その手のマニアが好きだというDVDだかなんだかに入っているという話は聞いたことがある。

 情報も自然と集まってくるのだ。
 特異体質なのである。
「じゃあ、話が早いや」

 赤くて異常に大きな月が出ている日をわざわざ選んだ。矢ヶ崎さんは大江戸線のS駅の長いエスカレーターを上る。
 歩いて3分の距離に、公園はある。

「で、公園に向かったはずなんだよ」

「……はず?」

 矢ヶ崎さんが歩いていたのは、なぜか異常に長い廊下。どこの壁も緑色に発光していた。

「なんの話をしてるんです?」

「だから、駅から出て公園に向かってたら、廊下を歩いてたんだよ」

 長すぎた。異常に長い廊下は延々と続き、終わりが見えない。

 ふと、どこかで囁く声が聞こえる。淋しくてしかたがなかった矢ヶ崎さんは急いでそっちに走った。
 長すぎる。いくら走っても辿り着かない。その距離で囁きが聞こえたという違和感など感じる余裕もなかった。
 光が見えた。矢ヶ崎さんは急いでそこに飛び込んだ。

「公園に着いたんだよ」

 昼みたいに明るく、しかし、間違いなく夜。
 その明るさが、手術室の電灯の明るさだと気づく。

「手術室?」

 公園中を異様に大きな、あの手術室の電灯が照らしている。まるで自分が小さくなったかのよう。
 そして、たくさんの人がいる。
 たくさんの人が、緑色のイクラを食べていた。

「終わり。そのあとは気が付くと駅のベンチに座ってた。よくある話よね」

「支離滅裂です」

 E公園が、昔病院だったというあたりまでは、鐘子も知っている。
 ただ、特に大きな手術ミスが云々という話までは聞いたことがない。

「……あれって、たぶん病院がどうこうって問題じゃないんだろうなぁ」

 鐘子が行けなくなる場所が増えた。
 だから、心霊スポットは嫌いなのだ。

ヤンデレ

 ヤンデレが好きな男友達がいる。と、鐘子が言った。

「実際にヤンデレと付き合ってみてよ、って言いたいなぁ」

 鐘子は尚樹に笑いかけた。

 尚樹は言った。

「その男は誰だ?」

降りてくる

 最近、中平さんは夜中に目が覚めることが多い。
 起き上がろうとすると、決まって電球に頭がぶつかる。そして、そのまままた寝てしまう。

「電球? 上からぶら下がってるやつですか?」

「そう。なぜか夜中のあの瞬間、下に降りてきてるんだよ」

 しかし、朝起きるといつも通り。
 夜中だけ降りてきてるのだろうか。

「俺のほうが浮いてるんじゃないか、って思うんだよな」

 中平さんは、自分をベッドに縛り付けることを検討している。

鏡の中

 違和感を持ったのは、歯を磨いていたときだった。

 田崎さんは右手に歯ブラシを握っている。
 鏡の中の彼も、そうだった。つまり、歯ブラシを握っているのは右手。


 右手?
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