夜。赤星さんが自宅へ帰っていたとき。
見知った道へ、急に足を踏み入れられなくなった。
「一メートル先も見えなくて、足がすくんだんだよ」
確かに街灯のない道。月明かりも大して強くはなかった。
「だけど、全く何にも見えないなんてことはないだろ? 普通」
それほどの闇。夜の闇ではなく、目を閉じたときの闇より、さらに暗く。
別な道を通ろう。
そう思って、きびすを返すと、一台の車が近付いてきた。ライトが前の闇を照らす。
胸をなでおろした赤星さん。
あの車に着いていけば、とりあえず暗くはない。
暗いはずがない。のに。
「俺を追い越したあと、そのまま闇の中に消えたんだよ」
ヘッドライトが照らすはずの道は、やはり真っ暗のまま。
通りすぎたあとにはエンジン音も残らなかった。