「オリオン座の腰って、3つだったよね?」

ビールを飲み干した詩春さんが空を見上げた。

タワーホテルの屋上ビアガーデン。
冬の今は閑散としている。
そういうところが、詩春さんは好きだ。

「あぁ、あの並んでるところ?」

「そう、そこ。3つのはずだよね?」

詩春さんが指差した。

「…………4つ?」

4つだった。

確かに、間違いなくそれはオリオン座。
だけれど、星は4つ。

「気味悪い」

詩春さんは吐き捨てて、ビールを足しにいく。

気味悪い?
詩春さんらしくないと鐘子は思った。いつもあれだけいろんなものを見てる詩春さんにとって、どうして?

「鐘子にも見えたことが、よ」

戻ってきた詩春さん。見透かしたかのような一言。

私にも見えてるから?
鐘子はその意味を考える。

と。

音もなく腰掛けた女性。

「あなたが見えるものはろくなものじゃないじゃない」

フェルだった。
いつものように、興味なさそうにそっぽを向いて。わざわざビアガーデンで烏龍茶。

「遅かったね」

乾杯するようにジョッキを差し出す詩春さん。

「最後のお客さん、楽しかったから」

それに応じようともせずフェルが言った。

「あの、ちなみにフェルさんは、見えてるんですか?」

空を見上げたフェル。

「元々が3つか4つか知らないけど…………4つにしか見えない」

「やっぱり」

鐘子が言うと、詩春さんは怪訝そうな顔をする。

「フェルに見えるんなら、なんか生まれてるんでしょ?」

生まれてるんでしょ、って。

確かに、フェルは命の始まりを感じることができる力がある。
つまり、妊娠を。

「…………そういうことが多い」

「じゃあ、あの4つ目の星は、何かが生まれるってこと?」

詩春さんが鐘子を見る。

「知りませんよ」

フェルがクスリと笑った。

「ろくなものじゃない」

そして、そう言った。

「生まれてくることなんか、ろくなことじゃない」

フェルは自分で言いながら笑う。

「そうだよ、ろくなことじゃないよ」

詩春さんも続けた。

「なんですか、それ」

「ねぇ鐘子」

詩春さんが微笑んだ。

「結婚したら?」

鐘子は、少し動揺した。が、なにも言わず微笑み返した。

尚樹の再就職が決まったのはすぐだった。

4つ目の星が見えていたのは、3人と尚樹だけだった。