「二人だといいんだけど、それより多いともう誰が喋ってるかわかんないんだよね」
その日の高梨さんは四人でスカイプしていた。
右から左からの声の嵐。四苦八苦しているのは自分だけじゃないと思った。
リアルで会ったことのない“友人”たちを声だけで判別するのは難儀だった。イメージもわきにくい。
「だからほら、画面にそれぞれ通話してる人のアイコンが出てるじゃん。あれって、そのときしゃべってる人のアイコンが動くんだよ」
ピクピクって、そういって高梨さんはゆびをふる。
「それを目で追いながら『あーいま喋ってるのはこいつなんだなー』って思うわけだよ」
目と耳をフルに使うわけですね、と鐘子は相槌を打った。そうまでしての会話をするほど価値がある関係なのか、という皮肉を込めた。
そんな折、突然画面から叫び声が聴こえたという。
「……画面から? イヤフォンでなく?」
「あれ、言ってなかった? イヤフォン壊れてたからパソコンのスピーカーからだったんだよ」
だからいつもよりいっそう、誰が誰なのかわからなくなるくらいごちゃごちゃの音声だったらしい。
そんななか、叫び声ははっきり聴こえた。
他の“友人”たちにも聴こえていた。誰かのマイクが確かに拾ったのだ。
「動いてたアイコンは?」
「……どれも動いてなかったんだよ」
高梨さんはそういって、へへっと笑った。わざわざ「へへっ」と絞り出したようだった。
「俺のアイコンが動いてたかどうかなんて、聞きたくねーよなぁ」
画面の中というより、画面の後ろから聴こえた気がした。