渡里さんは屋久島の出身である。

「有名過ぎてギャグみたいな話なんだけどさ」

 屋久島の道路は山を中心にぐるりと一周している。途中、いくつかのトンネルを通ることになる。
 そのトンネルのうちのひとつに、「出る」のだという。

「上半身だけのばあ様でね、“けけけ”だったか“かかか”だったか。どっちかがどっちかなんだよなー」

「どっちかがどっちか、って?」

 渡里さんはニヤリとした。

「上半身がいるってことは下半身もいるのよね」

 噂には様々な尾ひれがついている。上半身が下半身を探しているだとか、両方見たら死ぬだとか、実はそれぞれ別の身体なんだとか。
 どれもありそうな話だと思った。

「じゃあ、下半身も別なトンネルを通るときに出くわしちゃう可能性があるわけですね」

「別な、……まぁね」

 もったいぶるような渡里さんの物言いに、鐘子は身を乗り出した。

「どこにいるんです?」

「種子島のトンネルよ」