「正直、気は進まないけど、聞きたいんなら」
 作野さんは言った。崎野のさんの友人から聞いた話だという。


 当時、地方に出向していた友人の通勤ルートは山あいの道。途中、一本の長いトンネルがある。
 トンネルを抜けた先、左手に見える森の前。一人の少女が毎日森を見て立っている。
 バスでも待っているのか? それくらいにしか思わなかった。近くにバス停があるのか否かまで、友人は知らない。
 転勤するまで三年間、毎日見たとのこと。


「これだけ」
「えっ、これだけですか?」
「……そいつもあとから知ったらしいんだけどさ」
 作野さんは少し口ごもった。
「宮崎勤事件のあった森だったんだよ」
 どうしても、いたたまれない気持ちになるのだという。作野さんは手を合わせて、少し黙った。