落合さんが十時まで残業した日、既に他の社員は全員退社していた。

そんなときに、一本の電話。
こんな時間に電話なんか普通は入らない。
訝しく思いながらも、落合さんは電話をとる。

「鶴田さんはいらっしゃいますか?」

女性からの電話だった。

確かに、部署の課長補佐は鶴田という男性だった。
しかし当然ながら彼も帰宅しているため、その旨を伝える。

「沖縄の……と申します。鶴田さんに、本当にお世話になりました、とお伝えください。必ずお伝えください」

女性の名前だけが、聞き取れない。

と、電話の声に違和感。

電話じゃない。
どこか、近くで聴こえる。

思わず落合さんは振り向く。

室の入口。
妙に背の高い女性が立っている。

「本当にお世話になりました」

最後に、そう言って、彼女は姿を消した。

件の鶴田さんに沖縄の知り合いがいるのかはわからない。
結局落合さんは、伝える勇気が出なかった。